| Chucho Navarr_ⅰ | Chucho Navarro_ⅹⅲ | ⅹⅱ | index |
60年代である。 ナバーロ家は三人の子持ちになっていた。チュニイに次ぐ次男はフアン・マルティン Juan Martín, 長じてのち彼もチュニイともどもロス・パンチョスに加わった。それは82年末のことで、既にロス・パンチョスを引退していたヒルは大反対だったがチューチョはそれを押し切った。パンチョ五人組である。この編成は結構続き、87年12月には日本にも来ているが、その時ステージではチューチョは「フアン・マルチン・イ（と）チューチョ・バスケス」と紹介していた。なるほど、チューチョ・ナバーロと呼んだらおかしなことになる。その後彼は音楽界から離れた。
(82、12_Live_in_Tokyo_Navarro_MC_live_La_Corriente) (msuica)
三番目は女子でカリダー・ガダルーペ Caridad Guadalupe, カリダーのカリとグアダルーペをとって愛称はカリルー Carilú｡生年は58年か59年だろう、59年ロス・パンチョス初来日の折りチューチョは彼女の写真を持ち歩いていて会う人ごとに見せていた。なにせ赤ちゃんの写真だから性別もさだかに分からず “可愛い男の子” と書かれたルポも記事あった。この時のトップはジョニイ・アルビーノだが、彼は彼女をテーマに「カリルー」を作曲、もちろんロス・パンチョスが録音した。これで親子ともども曲になったわけだが、珍しい例と言えよう。
63年ごろのチューチョの作品に「ラ・コリエンテ（邦題：ながれ）」がある。63年末か64年にアルビーノ時代のロス・パンチョスが録音し、それを収めたLPはメヒコでは64年に市場に出た。ボレロ・ランチェーロの王様ハビエル・ソリースも歌い、更にその音にエンリーケ・カセレス期のロス・パンチョスが二重録音して話題になった。」
si la tengo ya amargada
si su vida idolatrada
por traiｃones, la dejé
para qué sirve ser bueno
si se vien tu cara
que me lleve la corriente
que me lleve la corriente
atrás no regresaré.
Es por eso que me miras
arrastrando mi tristeza
buscando la puñarado
que me borre su querer.
para qué sireve ser bueno
si se vien tu cara
que me lleve la corriente
que me lleve la corriente
atrás no regresaré
抱えていたとて何になろう
よこしまな企みずくでちやほやされた
魂の生命など 私は捨ててしまった。
善良であることが何になろう
人はお人好し面（ずら）を笑っているのだ、
流れを私が持ち去ってしまえたなら
流れを私が持ち去ってしまえたなら
その向こうから戻ってくるものか。
そんなわけで 私の苦痛のもとになりながら
お前はそんな目つきを私に向ける。
魂の求めているものを消し去るための
あいくちをまさぐり求めているくせに。
夫に妻、子供が、三人、ナバーロ家はまことに恵まれた平和な家庭であった。そのはずだった。
しかしその職業がら夫は家にいることが少ない。 こうなると、またまたカリダーの血が騒ぐ。子供たちは家政婦（裕福な家庭は通常女中を雇っているものだ）にまかせてステージに立つ。ステージ・ダンサーを世間がどんなふうに見ているかは先に言ったとうり。はじめの内は大目に見ていたチューチョだったが、良からぬ噂が耳にぼんぼん入ってくると、もういけない。
ナバーロ家は波風のさなかだ。「ラ・コリエンテ」はこのような状況下に生まれたのである。そしてカリダーが面白いことを言っている。（③による）、
「チューチョはネ、はじめは que,me,lleve. la chingada にしたかったのよ。でも、そんな詞が許されるわけはないから ラ・コリエンテにしたのヨ」
チンガーダのもとの動詞 chingar は、コンパクトで信用度の高い白水社の高橋西話辞典には 〔しょちゅう酒を飲む、（中米で）困らせる、尾を切る〕とあるが、メヒコでの意味はそんな生やさしいものではない。〔（女を）犯す、強姦する〕なのだ。 従ってチンガーダは “犯された女” だが、それでもまだ上品であって、もっと卑わいで直接的なことばである。 だから仲間内の会話では呆れるくらいに出てくるが表立った会話、 ことにご婦人の前ではタブーである。だから “そんな詞が許されるわけがない”。
先のフレーズをせいぜいお上品に訳すなら “あの助兵女をどこかへ連れ去ってしまえたら、 その先から（こんな噂だらけの所へなんか）戻ってくるものか”
つまり二人静かに暮らしたいというわけだ。
話は70年に飛ぶ。ルポ・ライターの伊高浩昭は69年末と70年初の二回に分けてメヒコ市のロス・パンチョス事務所でヒルやナバーロらに会っている。彼らは(CBSとの契約)25周年、つまり銀婚式を迎えさまざまな行事に追われていた。その時のことを伊高はその著書「メヒコの芸術家たち（97年、現代企画室）」に記しているが、以下はその抜書きである。
《ナバーロは「銀婚式」を、パンチョス結成、日本での大ヒットに次ぐ第三の転機だと考えていると言った。彼は六〇歳に近づいていた。やがて来るのは「離婚」だろうか。
「いつ死ぬのかと問われて答えられないのと同じように、、トリオの解散がいつになるかはわからない。ただ “金婚式” が無理なのはわかっていますが
ナバーロは神妙な顔になった。当時、かれは「ペルディダ」「喪失」という新曲を作っていた。この題名は．．．
| Navarro_ⅰ | back |