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| ⅳ_さてアビレスの後がまである。 ペルーで彼らはラウル・ガルシアという若者をテストした。合格だった。けれども次のボリビア公演が迫っていたので、同地で合流し、本格的な練習をしてデビューという口約束だけがなされた。 しかし、彼はボリビアには現れなかった。正式に断ってきた。正式な契約を交わしたわけではないのだから、彼は責められない。練習に入って、ハネられる可能性だってあるのだ。そんな危険な賭けに挑むには、彼は若すぎた。大学在学中だったのだ。 ボリビアの事実上の首都ラ・パスのパラセ（パレス）・ホテルで、彼らは「メンバー募集中」と正式に発表した。希望者は訪われられたし、と。 ロス・パンチョス二代目のトップ・ヴォイスとなるラウル・アルベルト・Shaw Boutie（1923年11月30日オルーロ県オルーロ～2003年4月13日アルゼンチン、ブエノス・アイレス）は、その訪問者たちの一人である。彼の家系に関する資料がないが、この姓名はフランス系で、本来ショウ・ボーチェと読むのだろう。けれどもShawはスペイン語の発音ならシャウでなくてはならない。事実ロス・パンチョスの25周年コンサートのMCははっきりシャウ、（彼もゲスト参加した）と呼ばわっているのがレコードに残されている。  (ノブキータ・志賀山さんに贈られてきたEenrique Caceresさん。MEXICO/CBS_D3CS-33）公の場でMCが呼びまちがえることはないはずだから、やはりシャウと発音すべきだろう。ところがロス・パンチョス七代目のトップ・ボイス、ラファエル・バスルト・ラーラが彼のDVDの中でショウと発音していたこともあった。 さて、ボーチェである。スペイン語の読みならボウティエ、ラファエル・エルナンデスの名作「ラメント・ボリンカーノ」の詞にフランスの大詩人ゴーチェGoutielの名が読みこまれているが、ガウティエルと発音されているのと同じことである。だから彼のロス・パンチョス入りにあたりナバーロは言った。「シャウはいいけれどもボウティエは、どうも不自然で、よそ者くさい。俺の苗字のモレーノをあげるから、それに変えたらどうかね」 こうしてラウル・シャウ・モレーノという芸名の歌手が誕生した。SHAWは英語のSHOW、つまりファッション・ショウやショウ・ビジネスなどのショウにも通じるし、しかもこのことばはスペイン語圏ではシャウ（しばしばチャウ）と発音されることも多いせいだろうか、彼の性は芸名と解釈されRaúl ”SHAW”Morenoとつづられたりもする。名前のことばかり長くなったが、彼がロス・パンチョスを訪ねたのは、作曲家として売りこむためだった。 ここで十二分に想像がつく。ラテン・アメリカのポピュラー音楽界では、楽譜などというものは二の次三の次どころか完全に無視されてしまう。売り込むには自分で歌うか、知人に歌ってもらうしかないのだ。この時は前者だったはず、そして二人のパンチョは作曲家としてよりも歌手としての彼を買ったのである。しかも、聞けばこの青年はトリオ・ロス・アルティプラーノスというトリオを組んでペルーを訪れたこともある由、すなわちトリオの経験者。いよいよ好都合。 ロス・パンチョスは、二代目のトップを迎えた。1951年の11月だった。アビレスはタイム・リミットを12月のチレ公演までと引導をわたしていたのだがそれより早くメヒコに帰った。すべてはボリビア滞在中に。アビレスは接局的だった。シャウ・モレーノにロス・パンチョス型の唱法を教え込み、このトリオの次代のトップ・ボイスに仕上げる。けれども曲目は「ラジート・デ・ルーナ」などゆかりのナンバーよりもロス・パンチョスにとっては新曲である曲が中心になったろうことは容易に察しがつく。それに彼の声はテノールではなくてハイ・バリトン、つまりナバーロの音域である。しかしハイ・バリトンといってもそれはあくまで音域上のこと、音質は重かった。ヒルもナバーロもそのことが気になっていた。ことにナバーロの声にとっては重労働である。しかし背に腹は変えられない。次の公演地チレからということで二人はシャウ・モレーノと正式に契約を結んだ。その期間は二年間だったそうな。 アビレスは衣装をそっくりシャウ・モレーノにゆずった。これはチャーロ服のことだろう。たしかにロス・パンチョスを離れたらそんなものは無意味である。 そしてこれはじゅうぶんに推定されることだが、アビレスはラウル・シャウから南米のバルス（ワルツ）を吸収したはずである。南米入りしてこのかた、彼はそれに魅されていた。、しかしそれはロス・パンチョス的なレパートリーではない。この種の曲も歌おう、つまりレパートリーにしようと望む彼とヒルの間に衝突があったと考えられないでもないではないか。実際にパンチョスを去ってのち彼が組んだクアルテート・アビレスにしてもロス・トレス・レジェスにしても南米のワルツ、ことにバルス・ペルアーノはその主要なレパートリーになってゆくのである。 こうして11月、ボリビアでアビレスは去り、ロス・パンチョスとラス・ドリイは更に南のチレへ、そして東へアンデス山脈を越えてアルヘンティーナへ入ったのだった。 |
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| La Historia Navarro_ⅴ 同国でロス・パンチョスは新編成最初の録音を行うが。その曲目は彼らの“持ち込み”であって、アルヘンティーナ側からの注文曲はなかったように思う。 ボレロではチレのキンレイネール作の「ジョ・キエロ・ア・エサ・ムヘール「ウナ・アベントゥーラ・マス」、ナバーロ作の・・・ |
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