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同国でロス・パンチョスは新編成最初の録音を行なうが、その曲目は彼らの“持ち込み”であって、アルヘンティーナ側からの注文曲はなかったように思う。ボレロではチレのキンレイネール作「ジョ・キエロ・ア・エサ・ムヘール」「ウナ・アベントゥーラ・マス」ナバロ作の「ドス・パラブラス・マス」「オルビーダ・ロ・パサード」、ほかならぬモレーノ作の「ラグリマス・デ・アモール」、そしてバルス・ペルアーノのヒット曲が「エストレジータ・デル・スール」「エル・プレベージョ」「アルマ・コラソン・イ・ビーダ」、ことにアドリアン・フローレス・アルバンの「アルマ・コラソン・イ・ビーダ」は当時出来立てのほやほやで、それを流行らせたのはロス・パンチョスなのだと言われている。なるほど、彼らはトップがフリート・ロドリゲスに代わったあともすぐにレコーディングしていた。 そのころのアルヘンティーナでロス・パンチョスの名は、ずいぶんと広まっていたはずである。その媒体は映画だ。40．50年代のメヒコ映画の人気といったら恐ろしいものだったと伝えられている。それらは“音楽入り映画”だった。音楽劇とかミュージカルとかではなく“音楽入り”である。せりふがいつの間にか歌に変るといったハリウッド・スタイルとは違う。酒場やナイト・クラブが舞台の筋立てで作られ、必然的にショウ場面がふんだんというわけである。質的にはハリウッド作品に遠く及ばないのだが、いくら良くてもハリウッド作品はことばがかせ(・・)になる。とにかく1949年一年の間にロス・パンチョスは十本ほどの作に出ている。出ているといっても90分か100分の作品の中でせいぜい3分、クラブのステージなどの場面で一曲歌うだけなのだが…。けれどもそのシーン見たさに一日中映画館にいりびたりだったなどということを語るアーティストもいる。 左は49年の「アベントゥレーラ」のスチールで、女優はLPレコードもリリースされたこともあるニノーン・セビージャ。これはあくまで宣伝用であって、映画にはこんな場面はない。しかしこんな写真を見せられたら胸をときめかせつつ映画館に足が向く。 このようなわけでブエノス・アイレスでのロス・パンチョスは遠来のアイドル、ずいぶんとあっちこっちに出演したようだ。そのような多彩な活動のひとつにアストラル劇場のレビュー出演があった。アルヘンティーナ側のスターは踊り手としてだけでなく振付師としても人気があったエベール・ロバートだった。（Eber Lobato）当然ラス・ドリイは彼の振付で踊ったろう。今後のために新しいステップを教わったりもしたろう。 芸能界にはいろいろな職種、ひいては人種(・・)がある。俳優、歌手、舞踊手、歌手、作家などなど、そしてそのそれぞれが自分たちの社会を持っているものだ。 ショウ・ダンス界はユニークだ。 女、それも裸に近い女を公然と抱ける男は、世間の男からすればまことにうらやましい身分だ。そればかりか、気の合ったカップルは仕事以外の時にもじゃれあい、気軽にチュウのひとつも。当人たちにしてみれば友だちどうしの日常茶飯事なのだが、そんなことは知らない人たちは考える、あの二人デキちゃってるに違いない、と。チューチョがそうだった。カリダーとエベールは怪しいのではないか、嫉妬の炎が燃えあがる。以前に増してしつこく彼女を追い回す。腕をねじあげて難詰する。恐くなったカリダーはようやっと彼の手をふりほどき、宿舎のホテルの自室に閉じこもって泣くばかり。 この時ロス・パンチョスが録音したチューチョの作品「ドス・パラブラス・マス（あとふたつのことば）」は、疑いもなく彼の心情だろう。
Dos palabras más tendré que decirte antes que me dejes y no vuelvas ya_ Dos Palabras más que nunca escuchas te pues tal vez mi orgullo me obligó a callar. Dos palabras más que harán no me dejes que nunca te alejes por siempre y jamás. Dos Palabras Más te adoro, te adoro eso es el secreto que te dan mi vida.	Dos Palabras Más- Raul “Shaw” Moreno Con el Trio Los Capotanes y Ritomos あとふたつのことばを キミに言わねばなるまい キミがボクを捨て もう戻ってこない、そうなる前に。 あとふたつのことば それをキミは一度も聞かなかった たぶんボクの見栄っぱりが 黙っているようにボクに仕向けたからさ。 あとふたつのことばは キミがボクを捨てなくさせよう キミがボクから遠去かったりさせなくしよう　 永遠に、そして、決して。 あとふたつのことば　それは テ　アドーロ　キミを　愛す これがあとふたつのことばが キミにボクの命をゆだねる秘めごと。
カリダーはチューチョの愛情をひしひしと感じていた。そして自身も彼にひかれているのに気づいていた。それなのに二人は何かと喧嘩した。カリダーはもともと怒りっ早い性格なのだった。 けれどももめごととそのあとの仲直りのたびに二人の絆は強さを増していった。いつしかカリダーはチューチョをチュイ Chui と呼ぶようになった。二人の間にだけ通用する名前である。夫婦や恋人の間には彼らだけの名が介在したりするものだ。 チューチョとカリダーは今や相思相愛の仲である。
La Historia Navarro_ �E ブエノス・アイレスのスケジュールをこなすとロス・パンチョスとラス・ドリイは北上して、ブラジルの当時の首都リオ・デ・ジャネイロに入った。1952年になっていた。ブラジルの首都がブラジレイロに代わるのは1955年である。 身の丈31メートルの巨大なキリスト像が見おろすこの都で、遂にナバーロは…
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