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ブエノス・アイレスでのスケジュールをこなすとロス・パンチョスとラス・ドリイは北上して、ブラジルの当時の首都リオことリオ・デ・ジャネイロに入った。1952年になっていた。ブラジルの首都がブラジレイロに代わるのは1955年である。 身の丈31メートルの巨大なキリスト像が見おろすこの都で、遂にナバーロほ妻になってくれないかとカリダーのプロポーズした。彼女に否はなかった。けれどもためらった。今ではもう愛していないと断言はするもののチューチョに妻がいるためだろうか。それもある。外地で、しかも一方的に離婚届など出せるものだろうか。しかし本妻のほかに二号、三号を堂々とかかえているメヒコ男は珍しくない（それも低所得層に多いとか）。 それよりも彼女が気にしたのは、20歳という二人の間の年齢差だった。しかも彼女ははたちになっていたかどうかの若さ、一方のチューチョは40に手が届きそうな。だから彼女はプロポーズを受入れたものの、もう少し先までまってほしいと答えたのだった。だが彼女は「愛している」と言ったのだ。とうとう言ってくれたのだ。ここにチューチョの傑作のひとつ、いわゆるパンチョス・メロディ「ロ・ドゥード」が誕生する。さて、
《題は「私はそれを疑う」という意味。．．．相手から愛を告げられても、それを額面通りに信じることができず、疑わしく思っている不安な心がうたわれます》＿永田文夫　コロンビアSL-1204_C1966年
Lo dudo, lo dudo, lo dudo que tú llegas a quererme como yo te quiero a ti Lo dudo,lo dudo, lo dudo que halles un amor más puro como el que tiennes en mí. 《それは疑わしいものだ 私があなたを愛するように あなたも私を恋するようになったなんて。 それは疑わしいものだ、 私の心に、あなたが咲かせたような もっとも純粋な恋を、あなたが見出したなんて》同上訳.同上( Trio Los Chicanos Nippon Lo Dudo) まさしくそのとおりで、筆者を含む誰が書いたって同じようなものになるはずだ。歌詞の訳しかり、詩的表出にこだわらず直に訳せば “あやしいものだ、あやしいものだ、ボクはキミを愛しているが、それと同じくらいキミもボクを愛するようになったなどとは。あやしいものだ、あやしいものだ、あやしいものだキミがボクの中に持っている愛ほどに純粋な愛を見つけようとは”。（チューチョの詞は、しばしばまわりくどい） ところが当時のチューチョの心理状態を思うと、この詞はもうひとつの解釈ができると思い至る。詞としては上記どおりのが正着だけれど、　当時のチューチョの詞(・・・・・・・・・・)としてはこう訳すべきだ というもうひとつの訳が浮かびあがってくるのだ。 とてつもない嬉しい変事　―例えば宝くじの大当たり―　に遭遇した時、私たちは喜ぶ以前に一瞬信じられない思いにとられる。ホントかよ、マジ、　ウソー、俺だけが幸運を一人じめにしちゃってよいのだろうか、なにか間違っているのではないか。チューチョがこれだったのだ。「ロ・ドゥード（それを疑う）」とは言いかたを変えれば「信ジラレナーイ」。　“とうとうキミもこのボクを愛するようになってくれたなんて、そんなことがあってよいのだろうか、とても信じられない”…。　我らがチューチョは完全に舞いあがっちゃっているのである。うがった解釈はこれまでにして、詞はいわゆるサビの部分で完成する。けれどもここでもカリダーの若さが作用しているようで多分に忠告・訓示っぽい。
Hallarás mil aventuras sin amor pero al final de todos sólo tendrás dolor, Te, darán de los placeres frenesí más no irlusión sincera como la que te dí Lo dudo, lo dudo, lo dudo que halles un amor más, puro como el que tíenes en mí.	幾多の戯れ遊びにキミは遭遇するだろう そのすべてがほとぼりも褪め果てた時 キミの手元にわずか残っているのは苦痛だろう 悦楽で人々はキミを熱くさせるだろう けれどもボクがキミに与えたような まことの夢などありはしない。 疑わしい、疑わしい、疑わしい いまキミがボクの中に持っているのとそっくりな 純正の愛をキミが見つけられるかどうかなど。
「ロ・ドゥード」の楽譜の版権がエディトリアル・メヒコカーナ・デ・ムシカ・インテルナシオナル（国際音楽メヒコ出版社。ら略称EMMI）にゆだねられたのは1954年であるけれども、チューチョがそれを作ったのはこのようないきさつで1952年のことだった。それも日本流に言えば道ならぬ恋(・・・・・)をしたばっかりに。
Chucho　Ｎａｖａｒｒｏ_�F．　　21 ブラジルでのロス・パンチョスの人気は大変なものだったという。もちろんブラジルにトリオがなかったわけではない。例えばあの「カミネモス（カミニェモス）」の作者であるエリベルト・マルチンスのトリオ・ヂ・オウロは30年代末から活動している名門だ（洗練されたトリオ・イラキタゥンの誕生はロス・パンチョスが訪問する前年、つまり51年）。けれどもロス・パンチョスのサウンドがどんなに・・・
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